The pure and the tainted

13.


「!!」
女の身体を片手で受け止めた瞬間だった。
はっと顔をあげたシュラの片腕が宙を切り裂く。
SISTEMA C.A.Iの防御壁さえ貫通した拳風が獄寺の頬をかすめた。
それに導かれるように、遅れて、獄寺も背後へと半身を開く。
斬線さえ目に見えそうな威力、木立が強風にさらされたかのごとく、しなり、ざわめき、揺れ、震えた。
「――姿を見せたらどうだ」
地を這うシュラの声。
「お前の仲間か? ――気は進まんが、いますぐ首を落としてやっても構わんぞ」
ぎらぎらとした迫力をたたえる恫喝は、もともとの造作に相まって、ひどく、悪役じみている。
マフィアという看板を背負っている分、他人をどうこうはいえない。
だが、獄寺は、たしかに躊躇を覚え、無意識に眉間にしわを刻んでいた。
木立の悲鳴が止んだ。
ガサガサ、と茂みが鳴る。
「うーん、死んでも、僕の取り分が増えるだけだから、そんなに気にはならないんだけどねえ」
この場にそぐわないのんびりとした声――。
飄然とした声音に相応しい、呑気な笑顔の青年が姿を見せたのは、すぐ、だった。
両手をあげているのは、から手であることを明かしているのだろう。
しかし、それは何の油断にもつながらない。
現に女は発火能力者だった。武器を持たない殺人者が少なからず存在することを、
知らぬほど平和な世界には生きてきたつもりはない。しかも。
――足音なんざ聞こえなかった。
獄寺は目を細める。
これほどの自然に囲まれた中で、土を踏みならす音ひとつ、聞こえずにいた。
女の攻撃が乱暴だった所為だけではない。
青年の現れた位置ならば、わずかな物音を聞き落とす距離ではないのだ。
「いつから気付いてました? 僕のこと」
あくまで飄々と青年が言う。
シュラとの好対照は、他人事であれば、いっそ観客に徹したいほどだった。
「おまえがそこに現れた瞬間からだ」
「へえ! すごいな、世の中ひろいとは思っていたけど、いろんな人間がいるもんだねえ。
 気配に感づかせないのは、上手いつもりだったんだけど」
無防備な動きで、青年が進み出た。
女と似ている、と思ったのは、職業や人種の括りだけではなさそうだ。
のうのうとした態度をのぞけば、そこかしこに類似点が伺える。
「帰ったら皆に報告しないとね」
細い目を三日月の形に笑う。
片目を眇めた獄寺は、注意深く青年を眺めた。
「仲間がいるのか。誰に報告するって?」
「はは、それは言えないよ。あなただって、言わないでしょ」
「そっちは随分オレに詳しいみてぇだが。卑怯じゃねえのか?」
「卑怯者かあ、そうかもしれないね」
視界の隅で、シュラが手刀を構えた。
青年の足が止まる。
「まあ、でも卑怯万歳なんだよね。そういう仕事だから」
最後に勝てばいいの――青年の言葉尻を奪うように、ばちん、と何かが弾けたような音を聞いた、気がした。
一瞬――少なくとも、獄寺にも、シュラにとっても、その時間は僅かなものでしかなかったはずだ。
「今日は帰ります。こんな手強いなら、作戦変更だ」
そう言って、青年が十数メートル離れた“出口近く”で片手を閃かせる。
あろうことか、もう片方の腕には女の体が抱えられていた。
「!」
――いつの間に!?
2人は目を見張る。
「また、後で」
軽やかな口ぶりで告げられる挨拶。鋭く舌打ちして、獄寺はコートの内側に手を滑らせた。
長い指に握られるボム、同時進行でくわえた発火装置は、導火線への着火を果たす。
夕闇の宙に軌跡を描くロケットボム Ver.X。追尾式のダイナマイトは、しかし、青年達をとらえることは出来なかった。
ボムは誰もいない無人の空間で、あざやかな爆音をたてて、爆ぜた。