The pure and the tainted

11.


官公庁の仕事の遅さ、手際の悪さはもはやイタリアの名物ですらある。
だからといって、今日のような煮え切らない態度を取られたことは未だかつてなかったはずだ。
ボンゴレ十代目ファミリーがこの街を根拠地と定めて、数年。
今では確固たる地盤と地位を築いたかれら組織に対して、政府は比較的協力的ですらあった。
ところが。
「――ち」
舌打ちした獄寺は、州庁の駐車場に停めた愛車目指して大股に歩きながら、煙草を取り出す。
この季節特有の短い日脚が、すでに太陽を西の空へと傾けている。
東京と気候が似ているとはいえ、わずかに季節の移行は早い。
「何が“調査します”だ。調査なんざこっちで出来る。大人しく材料揃えて出せばいいってのに……!」
苛立ちが独白を生む。
電力量の推移、市場資金の流動、市内の通話・通信記録。それらは既に本部で調査にあたらせている。
ただ、航空管制記録や個人情報に基づく情報となるとそうはいかない。
市庁舎で役人と直接交渉を得意とする獄寺が、ここまで収穫を得られないとなると、それだけで作為的な何かを感じる。
金さえ積めば、大統領の愛人の名前でさえ暴露するお国柄なのだ。
尤も、その対応はある種のヒントを与えてくれるものではあるのだが。
「政府が関係しているとなると、面倒このうえねぇな」
一定の距離をおいて背後に付き従うシュラは何も言わない。
聞かせるでもなく吐き出せる相手がいることは、思考をまとめるのにずいぶん役立つ。
山本との付き合いでそれを学んだ。山本と感触は違うが、この男は自分の役割をしっかりと果たしている。
「でもローマからは未だ何の介入もねえ。となると……」
「獄寺さん」
不意に、シュラが低くかれを呼びとめる。
歩調をわずかに落として、獄寺は視線を背後に投げた。
鋭い目つきをさりげなく横に流したシュラに、無言で頷き返す。
「……一服してから帰るか」
「ならば、公園が」
「わかった」
尾行者の存在に気づいたことを悟られないよう、足先を変える。
180メートルの高層ビルには、何千人という職員が働いている。
かつて小型飛行機が衝突する事故も体験しているビルに、あまり被害を及ぼしたくはない。
何度も庁舎を建て替えられるほど潤沢な資金はないうえに、
原因が獄寺だとすれば、少数ながら存在する反マフィアを掲げる政治家にどのような口実をあたえるとも限らなかった。
季節感を失わせるほどの緑にあふれた公園は、すぐさま、ふたりを呑みこんだ。
人影は少ない。
ミラノに敷いた厳戒態勢が、市街地のただなかにあるこの場所からも人足を遠ざけている。
高い木立に囲まれた公園は視界を制限するが、人目からもかれらを隠す。妨害どころか、却って好都合だった。
半ばほどまで進んだだろうか。おあつらえ向きの広場に出る。
鮮やかに彩色されたベンチを選んで、獄寺はくわえたままの煙草に火を点けようと――
取り出したライターを、擦る寸前。唐突に、それは始まった。